胃痛(心窩部痛)とは?
「胃痛」とは、みぞおちの辺りに感じる痛みを指します。一般的に「胃痛」は、「みぞおちの痛み」として表現されることが多いですが、「心窩部痛」が医学的に正式な表現です。「胃痛」には、みぞおちの辺りのキリキリする鋭い痛みから、キューっと締め付けられるような痛み、ズキズキした脈打つような痛み、持続するシクシクした鈍い痛みまで、さまざまな性状の痛みを含みます。
同じ「胃痛」でも、その原因にはさまざまな病気があり、痛みの性状によって緊急性の程度も異なります。
胃痛は、主に胃や十二指腸の異常が原因で出現することが多い症状ですが、食道、膵臓、胆のう、腸、心臓など他の臓器の病気が原因で出現することもあります。
診察時に
医師に伝えるべき情報について
症状の感じ方には、かなり個人差があります。自身の感じている症状をそのまま医師に伝えることが非常に重要です。
以下に挙げる情報は一例ですが、これらの情報は病気の診断に非常に役立ちます。
診察時に医師にお伝えください。
- 特定のきっかけなく痛みが急に始まった
- 以前からある痛みが徐々に強くなってきた
- これまで経験したことがないほどの強い痛みである
- 我慢できる程度の痛みである
- 間欠的な痛みである(痛みに波があり、弱くなったり強くなったりする)
- 持続的な痛みである(痛みに波がなく、常に一定の痛みがある)
- 一定の場所がずっと痛む
- 痛む場所が時間とともに変化している(例:最初はみぞおちの痛み→徐々に右下腹部の痛み)
- 痛む場所を押したときよりも離したときの方が痛みが強い
- 歩くとお腹に響く
- 痛み以外の症状がある(発熱、嘔気・嘔吐、下痢など)
- 痛みが出る数時間前にイカ、アジ、サバなどの刺身を食べた
- 過去に腹部の手術歴がある
- 頭痛や腰痛などがあり、鎮痛剤を頻繁に服用している
- 黒色便や血便がある
- 吐血や黒色嘔吐がある
- 体重減少がみられる
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症の既往歴がある
- 労作時(階段の昇降や早歩きなど)にみぞおちや胸が重苦しくなるが、休息で改善する
- 痛みが出た後に失神した経験がある
など
緊急性の高い(救急病院の受診が必要と考えられる)
胃痛について
以下に挙げる症状は、あくまで一例ですが、これらの症状は緊急性が高いと考えられる胃痛です。
夜間や休日を問わず、速やかに救急病院を受診しましょう。
- これまで経験したことがないほどの我慢できない強い胃痛
- 黒色便や血便を伴う胃痛
- 吐血や黒色嘔吐を伴う胃痛
- 冷や汗や顔色の悪化、意識障害を伴う強い胃痛
- 歩くとお腹に痛みが響く胃痛
- 痛む場所を押したときよりも離した時の方が痛みが強くなる胃痛
- お腹が板のように硬くなっている胃痛
- 38℃以上の発熱を伴う胃痛
- 悪寒や戦慄(体がガタガタ震える)を伴う胃痛
- 意識の喪失を伴う胃痛
- 声を発することができないほどの強い胃痛
など
近日中に消化器内科の
受診が必要と考えられる胃痛について
以下に挙げる症状は、あくまで一例ですが、これらの症状がある場合は、近日中に消化器内科を受診しましょう。
- 我慢できる程度の胃痛
- 痛みに波がある(良くなったり悪くなったりする)胃痛
- 刺身や卵料理、焼き肉などの摂取後に出現した38℃以下の発熱や嘔吐、下痢を伴う胃痛
しばらく様子を見ても良いと
考えられる胃痛について
以下の症状の場合は、すぐに病院を受診せずにしばらく様子を見ても問題ないと考えられますが、経過中に症状が繰り返される場合や悪化した場合は、すぐに消化器内科を受診しましょう。
- 胃痛が出現したが、強い痛みではなく、短時間で改善し、その後は痛みが無い場合
胃痛の原因となる病気について
胃痛は、主に胃や十二指腸に異常がある場合によく現れる症状ですが、その他にも食道、膵臓、胆のう、腸、心臓に異常がある場合にも現れることがある症状です。
これらの症状が持続する場合は、自己判断せずに、必ず消化器内科を受診し、専門医の診察を受けましょう。
① 急性胃炎
強いストレスによる自律神経の乱れ、ウイルスや細菌による感染、過度の飲酒や過食、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の服用などが原因で、胃に急激な炎症が生じて胃痛が出現します。
確定診断には、胃カメラ検査(胃内視鏡検査)が必要です。
②慢性胃炎
食生活の乱れやストレス、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などが原因となり、長期間にわたって胃粘膜が炎症と修復を繰り返すことで、胃粘膜がやせ細って萎縮し、次第に修復が追い付かなくなる状態が慢性胃炎です。胃痛だけでなく、食欲低下、嘔気・嘔吐、胸やけ、胃もたれなどの症状を引き起こすことがあります。確定診断には、胃カメラ検査が必要です。
③胃潰瘍・十二指腸潰瘍
ストレス、喫煙、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期服用、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などが原因で、胃粘膜や十二指腸粘膜が損傷し、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすことがあります。みぞおち周辺の強い痛みの原因となるだけでなく、進行すると出血して黒色便や暗赤色便、黒色嘔吐や吐血を引き起こすこともあります。また、潰瘍が進行すると胃や十二指腸の壁に穴があく穿孔を来たし、緊急手術が必要となることもあります。少しでも気になる症状があれば、放置せずに早めに胃カメラ検査を受けることが重要です。
④胃アニサキス症
胃アニサキス症は、アニサキスの宿主である海産物(アジ、サバ、イワシ、カツオ、サンマ、イカなど)を生で摂取した後、約1時間から数時間後に急激な上腹部痛が現れる寄生虫感染症です。アニサキスに対する効果的な治療薬はなく、胃カメラでアニサキス虫体を直接、摘出するのが唯一の治療方法です。病歴から胃アニサキス症が疑われる場合は、胃カメラ検査を行い、アニサキス虫体の摘除術を検討する必要があります。
⑤逆流性食道炎(びらん性胃食道逆流症)
逆流性食道炎は、食道に胃酸が逆流し食道粘膜にびらんや潰瘍などの炎症が起こるため、胃痛、胸痛、胸やけ、呑酸症状、胸部不快感などを引き起こします。確定診断には、胃カメラ検査が必要です。
⑥非びらん性胃食道逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)
非びらん性胃食道逆流症(NERD)は、胃痛、胸痛、胸やけ、呑酸症状、胸部不快感などの症状があるにもかかわらず、胃カメラ検査を行っても食道粘膜に炎症を認めない病態です。ストレスや不安、不眠などが原因と考えられています。
確定診断には、胃カメラ検査に加えて、食道に胃酸が逆流しているかどうかを24時間モニターする24時間食道インピーダンス・pHモニタリングという特殊な検査が必要です。24時間食道インピーダンス・pHモニタリングは、当クリニックでは実施しておりませんが、必要があれば実施可能な医療機関へのご紹介を行います。
⑦機能性ディスペプシア(FD:functinal dyspepsia)
機能性ディスペプシア(FD)は、胃痛、胃もたれ、食欲不振、嘔気・嘔吐などの症状があるにもかかわらず、胃カメラ検査やCT検査などの色々な検査をしても、異常が何も見つからない病気です。機能性ディスペプシアは、ストレスや不安、緊張などの自律神経の乱れが原因で胃の動きの異常や胃の知覚過敏が起こり、症状が出現すると考えられている機能性疾患の一種です。確定診断には器質的疾患の存在を否定するために、胃カメラ検査や腹部エコー検査などが必要です。
⑧進行食道がん(食道扁平上皮がん)
進行食道がんでは、胸痛、胃痛、つかえ感、胸やけ、胸部不快感などの症状が現れることがあります。食道がんは、早期発見・早期治療が重要です。少しでも気になる症状があれば、放置せずに早めに胃カメラ検査を受けましょう。
⑨バレット食道がん(食道胃接合部がん)
慢性的な逆流性食道炎は、食道胃接合部の食道粘膜が扁平上皮ではなく、円柱上皮に置き換わるバレット食道の原因となります。バレット食道は、バレット食道がんの発生リスクを高めることが報告されています。バレット食道がんは、胃痛・胸やけ・吞酸症状・胸部不快感の原因となることがあります。バレット食道がんは、早期発見・早期治療が重要です。少しでも気になる症状があれば、放置せずに早めに胃カメラ検査を受けましょう。
⑩胃がん
進行胃がんでは、胃痛、つかえ感、胸やけ、胸部不快感、食欲低下、吐き気などの症状が現れることがあります。胃がんは、早期発見・早期治療が重要です。少しでも気になる症状があれば、放置せずに早めに胃カメラ検査を受けましょう。
⑪急性膵炎
急性膵炎は、アルコール摂取や胆石などが原因で、消化液である膵液が膵臓や周囲の臓器を自己消化し、激しい炎症を来す病気です。突然、激しい胃痛や背部痛、悪心・嘔吐などの症状が現れます。
⑫急性胆のう炎
急性胆のう炎は、胆石などが原因で胆のうに細菌感染が起こる炎症性疾患です。みぞおちから右季肋部(右の肋骨の下)の痛み、発熱、悪心・嘔吐などが現れます。
⑬急性胆管炎
急性胆管炎は、胆石やがんなどが原因で胆汁の通り道である胆管が詰まることで細菌感染が起こる炎症性疾患です。みぞおちから右季肋部(右の肋骨の下)の痛み、黄疸、発熱、悪心・嘔吐などが現れます。
⑭急性虫垂炎
急性虫垂炎は、虫垂の細菌感染が原因で起こる炎症性疾患です。急性虫垂炎の初期症状は、胃痛と悪心・嘔吐です。時間の経過とともに、痛む場所がみぞおちから右下腹部に移動します。
⑮虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)・急性大動脈解離
心臓や大動脈の病気でも突然発症する激しい胃痛・背部痛を引き起こすことがあります。
胃痛がある場合は
どうしたら良いの?
胃痛は、胃だけでなく、胆のう、膵臓、心臓、大動脈、虫垂の病気が原因となっている可能性もあります。
また、緊急性の高い病気が関与していることもあります。胃痛がある場合は、自己判断せずに、必ず消化器内科を受診し、専門医の診察を受けることが重要です。
食道がんや胃がんが症状の原因となっている場合もあります。 特に、食事が摂取できないほどの強い痛み、これまでに経験したことのない激しい痛み、症状が1カ月以上継続している場合、体重減少がみられる場合などは、早めに受診しましょう。
胃痛の原因を
調べるための検査について
症状の改善には、その原因を特定することが不可欠です。胃痛は、胃だけでなく、胆のう、膵臓、心臓、大動脈、虫垂の病気が原因となっている可能性もあります。
原因を特定するために、以下の検査を行います。
- 血液検査
- 心電図
- 腹部超音波検査(腹部エコー検査)
- 胃カメラ検査
- CT検査
など
当院の胃カメラ検査の特長
症状の改善には、内視鏡検査(胃カメラ検査)による原因の特定が不可欠です。
当院では、患者様の苦痛に配慮した胃カメラ検査を提供しており、検査を受けた患者様から「想像していたよりもずっと楽だった」とのお声を頂けるようにスタッフ一同、日々努力しております。 どのように内視鏡スコープを操作すれば、苦痛に配慮した内視鏡検査になるのかを熟知した専門医が検査を担当します。 少しでも気になる症状があれば、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。
監修:鹿児島中央駅西口消化器内科・胃大腸内視鏡クリニック 院長 細川 泰三